1951年、岡本太郎は美貌のファッションモデルの左胸に、絵具で真っ赤に染めた自分の手を押しつけた。純白のイヴニングドレスが次々と手形で彩られていく。ドレスという実用物がオブジェとしての芸術になった。岡本芸術がデザインとであった瞬間だった。
テキスタイルに興味をもった太郎は、以来、布と遊ぶようになる。振り袖、帯、ゆかた、スカーフ、ハンカチ、ネクタイ…、はては絨毯や鯉のぼりまで、デザインのフィールドはどんどん広がっていった。
「もう額縁入りの芸術の時代ではない。生活環境そのものが芸術でなければならない。チンマリした固定観念、おていさいから離れて、濃くいろどられた自由なイマジネーション。その喜びをふんだんに生活に取り入れてほしい」
本展では布と遊ぶ太郎をご覧いただこうと思う。
芸術とは額縁に入れてありがたいと拝むようなものではない。なんでもない暮らしの中に息づくべきものだ。そう考えた岡本太郎の芸術観が腑に落ちると思う。
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