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days of delight

「1969」/Days of Delight Quintet

2019.6.19 発売
岡本太郎の東北展

《 いまに生きるハードバップの魂 》

日本ジャズの新たなプラットフォーム〈Days of Delight〉が土岐英史、峰厚介につづいてお届けするのは、シーンの第一線を走るトップミュージシャンが結集するスペシャルバンド《Days of Delight Quintet》です。20代から50代まで世代を超えて参画した腕利きのプレイヤーたちは全員がバンドリーダー。ストレートアヘッドなジャズの“いま”を圧倒的な熱量で紡いでいきます。
バンドを束ねるのはベーシストの塩田哲嗣。レコーディングエンジニアとして既発2作品の音づくりを担ってきた塩田さんが、ベースを演奏しながらメンバーを指揮し、同時に自らそれを録音するという離れ業をやってのけたのが本作です。プレーヤーとして演奏に没入し、エンジニアとしてバンド全体のサウンドを冷静に俯瞰する。対極的なアクションを同時並行で進めざるを得ないわけですから、並の資質・技術力でできることではありません。
塩田さんは1996年にニューオリンズに渡り、その後ニューヨークと日本を行き来しながら腕を磨いてきたミュージシャンです。東京スカパラダイスオーケストラのNARGO(tp)と北原雅彦(tb)、本作にも登場する太田剣をフロントに擁し、いまも白熱のライブでファンを熱狂させている《SFKUaNK!!》(スフォンク:SkaとFunkのアナグラム)、類家心平(tp)、SOIL&“PIMP”SESSIONSの丈青(p)とみどりん(ds)らと結成した《Super★Stars》など、ジャンルを軽々と飛び越えながら多彩な演奏活動を行なっています。
その彼がエンジニアリングを学ぶためにバークリー音大に留学したのは2010年のこと。プロのミュージシャンがプロのエンジニアになり、ともに第一線で活躍しているというのは、歴史的に見てもきわめて異例のことではないかと思います。
トランペットの曽根麻央は1991年生まれで、まだ20代。全額奨学金を授与され18歳でバークリー音大に留学し、新設された修士課程を首席で卒業したエリートです。自身のバンドを率いてニューヨークの「ブルーノート」やワシントンの「ブルースアレイ」への出演を果たすなど、その実力は折り紙つき。同時にピアノもこなす二刀流で、2018年にはセルフプロデュースの『Infinite Creature』をリリース。これからのジャズシーンの中核を担う人材です。
早大でロシア文学を学んだアルトサックスの太田剣は1970年生まれ。2006年にアメリカの名門ジャズレーベル〈Verve〉からリーダー作『Swingroove』をリリースした実力派です。矢沢永吉はじめ他ジャンルのアーティストからも頼りにされ、さまざまなセッションに引っ張りだこの売れっ子ミュージシャンです。
ピアノの吉岡秀晃は、19歳のときに来日中のレッド・ガーランドに絶賛された逸材。21歳で上京して以来、第一線を走りつづけてきました。2000年にJamil Nasser(b)、Jimmy Cobb(ds)とともにNYのヴァン・ゲルダースタジオで録音した『Moment to Moment』が、ニューヨークタイムス紙に「聞く者の心の中に都市の官能を引き起こす」と評されるなど、ブルースフィーリング溢れるファンキーなピアノは余人をもって代えがたく、まさにプロがリスペクトする本物のプロです。
1986年に奨学金を手にバークリー音大に留学した大坂昌彦は、Delfeayo Marsalisのバンドに迎えられて全米をツアーするなど、当時から本場のミュージシャンに認められたドラマーです。1990年の帰国後には、新時代のジャズを目指す「日本ジャズ維新」ムーヴメントのリーダー的存在となり、1993年には《大坂昌彦・原朋直クインテット》として象徴的アルバム『ドーン・ブレークス』をリリースしました。サイドマンとして100枚を超えるアルバムに参加するなど、自他ともに認める日本屈指のドラマーです。



本アルバムには、このレコーディングのために塩田さんが書き下ろした新曲が3曲、日ごろこのメンバーでライブ演奏している塩田さんの旧曲が2曲、1960年代の名曲のカバーが3曲収められています。
新曲のうち2曲は芸術家・岡本太郎をモチーフにしたもので、「TARO」は文字どおり太郎その人を、「Tower of the Sun」は太陽の塔をトリビュートしています。土岐英史が書き下ろした「Black Eyes」(岡本芸術をモチーフにした新曲。アルバム『Black Eyes』に所収)がそうであったように、「TARO」もまた美しい旋律が印象的なバラードです。たったひとりで権威や常識と闘った岡本太郎の孤独が表現されているのかもしれません。
いっぽうの「Tower of the Sun」はじっさいに太陽の塔を見上げたときのインプレッションから生まれた曲。ダークで美しいメロディを聴きながら、「斜め後ろから見上げたときのちょっと寂しげな表情にいちばん惹かれた」と語る彼の言葉を思い出しました。
シンプルな構成の「Minor Blues」はこのメンバーで演ることを想定して書かれた新曲です。このうえなくシンプルであるがゆえにバンドの実力がストレートに発露、上質なドライブ感をもたらしています。
1曲目の「Attractive Vamp」は塩田さんが20代半ばでつくったもの。プレイヤーからスリリングな演奏を引き出す力のある曲で、いまもライブでよく演奏されています。最後の「Time」も若い頃の曲で、当時のバンドメンバーのサックス奏者がライブに来られなくなったときに師匠筋にあたる土岐英史がトラ(代役)で駆けつけてくれることになり、急遽書き上げた作品。土岐→時→Time というシャレがタイトルの由来です。
2曲目に収録しているのは、ジャズファンなら知らぬ者のないリー・モーガンの「The Sidewinder」。1963年に録音されたオリジナルは名門〈Blue Note〉レーベル創設以来の売り上げを記録した名盤で、タイトルチューンの本曲をこれまで数多くのミュージシャンがカバーしてきました。それらとこのバンドのサウンドを聴き比べるのも楽しみのひとつです。
「Driftin‘」は、ハービー・ハンコックが弱冠22歳にして録音した初リーダー作『Takin’ Off』に収められている曲。ハービーのケタ外れの才能が発露したこの曲を、バンドメンバーはじつに楽しそうに演奏しています。
ウエイン・ショーターの突出した作曲能力が開花したアルバム『Speak No Evil』に収められていたのが「Fee-Fi-Fo-Fum」です。1964年に録音されたオリジナルの名演と本作を聴き比べると、半世紀のあいだに何が変わり、何が変わっていないのかがよくわかります。



〈Days of Delight〉は、熱くクリエイティブな日本ジャズのスピリットを受け継ぐことを目指して創設されたレーベルです。リスペクトしているのは、海外の模倣ではない独自のサウンドを確立した“日本人にしか生み出し得なかったジャズ”を生み出した1970年代の日本ジャズ。
アルバムタイトルを『1969』と名づけたのは、ここに収められている「音」の熱量が“革命前夜”の情熱とエネルギーを想起させてくれたからでした。男気あふれる硬派なプレイはファンキーでブルージー。ジャズ本来の冒険心を受け継ぎながら現代の感性で解釈したハードバップのダイナミズムをどうぞお楽しみください。


平 野 暁 臣 〈Days of Delight〉Founder/Producer


2018.2.11 録音

DOD-003
定価:¥2,500(+tax)


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